「みなづちブログ」はリンクフリーです。リンクを行う場合の許可や連絡は不要です。引用する際は、引用元の明記と該当ページへのリンクをお願いします。
同性婚と海外赴任|30年連れ添っても「配偶者」になれない日本の現実

ゲイのみなづち(@minaduchi)です。
日本は、G7で唯一、同性カップルに包括的な法的保護を保障する制度を持たない国です。
この法的空白が最も残酷な形で牙を剥くのが、海外赴任の場面。国境を越える「ビザ」という国家間の厳格なシステムと衝突し、愛する家族を物理的に引き裂く壁となるのです。
異性カップルなら、市役所で婚姻届を出し、戸籍謄本を持って大使館へ行けば帯同ビザの手続きに進めます。しかし同性カップルには、現行法上、婚姻届が受理されない状況にあります。
パートナーシップ制度は全国500以上の自治体に広がり、人口カバー率は9割を超えています。しかし法的拘束力はなく、外国の入国管理局に提出しても「配偶者」とは認められないのが実情です。
全国6件の高裁判決のうち5件が「違憲」と判断し、BME(Business for Marriage Equality)への賛同は673の企業・団体(2025年2月18日時点)に達しています。
それでも法制化は実現せず、当事者は今日も「同じ辞令を受けた同僚」と全く異なる現実を突きつけられている。 これが日本の現在地です。
あなたの同僚にも、部下にも、この壁の前で立ち尽くしている人がいるかもしれません。本記事では、海外赴任における同性カップルの帯同問題を軸に、各国のビザ制度、動き出した企業の対応、そして司法の現在地を整理します。
本記事のポイント
海外赴任と同性婚の問題をめぐる制度・企業・司法の現在地を整理しました。
- 同性婚がないため帯同ビザが取得できない構造
- 米国「祝祭地法」が日本の同性カップルに突きつける壁
- 英国・タイで進む制度改革の具体的内容
- 先進企業の海外赴任パートナー支援策
- 最高裁での統一判断に向けた司法の動向
記事を書いている人のプロフィール

- 僕はゲイ×強迫性障害
- ノンケ→バイ→ゲイに心変わりしてきた
- ゲイを自覚して20年ほど
- Instagramを中心に発信活動しているクリエイター
- 🌈 結婚する自由を、すべての人に。
同じ辞令、違う未来:ある海外赴任の朝

同性婚のない日本では、海外赴任の辞令が同性カップルにとって「家族の分断」を意味することがあります。
同僚の辞令
同僚に海外赴任の辞令が出た。
「もちろん、奥さんも一緒に行くよ」
彼は嬉しそうに荷造りの話をしていた。
引っ越し業者の手配。
子どもの転校手続き。
会社が全部やってくれるらしい。
「家族帯同」は、彼にとって当たり前だった。
僕の辞令
翌週、僕にも同じ辞令が下りた。
人事に聞いた。
「パートナーを帯同できますか」
窓口の答えは静かだった。
「法的な配偶者の方であれば」
「お手続きできます」
30年連れ添った彼は、配偶者ではない。
この国の法律では。
空港で一人
来月、同僚は家族と海を渡る。
僕は一人で飛ぶ。
同じ会社で働いている。
同じ辞令を受けた。
同じだけ会社に貢献してきた。
違うのは、たった一つ。
法的な結婚ができないこと。
それだけで、家族は引き裂かれる。
なぜ同性カップルだけが家族と引き裂かれるのか

まず記事全体の結論からお伝えします。
同性カップルの海外赴任帯同を阻んでいるのは、「日本で法律婚ができない」ことと「赴任先国のビザ制度が法律婚を前提としている」こと、この二重の壁です。
海外赴任に伴う帯同ビザの発給には、2つのゲートを通過しなければなりません。第一に「企業の海外赴任規程が、パートナーを”家族”として認めるか」。
第二に「赴任先国の入国管理が、パートナーを”配偶者”として扱うか」。異性カップルの場合、婚姻届一枚でこの両方が開く仕組みになっています。
しかし同性カップルは、日本で婚姻届が受理されないため、第一のゲートで「法律婚の配偶者」という条件を満たせません。企業がどれほど社内で「パートナー制度」を整備しても、赴任先の大使館や入管局は日本の自治体パートナーシップ証明を「法律婚」とは認めない構造です。
つまり、企業単体の努力では国家の入管制度を超えることができないのが実情です。同性カップルには「単身赴任」「パートナーが自費で留学ビザを取得して同行」「第三国で婚姻してから赴任」といった迂回策だけが残されます。
いずれも異性カップルには存在しない選択肢であり、多大なコストと精神的負担を伴うものばかりです。
同性婚がない国で感じる「帯同できない」恐怖

以前、知人が海外赴任の打診を受けた際に「パートナーのことを人事に相談できなかった」と話していたことがあります。その言葉がずっと頭に残っています。
僕自身は現在パートナーがいませんが、もし将来パートナーができて海外赴任の辞令が出たらと想像することがあります。人事の窓口で「パートナーがいます」と言えるだろうか。言ったとして何が変わるだろうか。
制度が変わらなければ、相談すること自体がカミングアウトになり、その先に「帯同不可」という結論が待っているだけです。
当事者にとっての海外赴任問題は、「ビザが取れるかどうか」という手続き上の課題にとどまりません。キャリアを諦めるか、パートナーとの生活を諦めるか。その二択を突きつけられること自体が、異性カップルには存在しない構造的な不平等なのです。
ビザという「不可視の壁」:米国・英国・タイの同性婚制度比較

端的に言えば、赴任先国のビザ制度は国ごとに大きく異なり、同性カップルにとっての「帯同のしやすさ」には劇的な格差があります。日本人駐在員が多い米国・英国、そして近年法整備が進んだタイの3カ国を比較してみます。
まず3カ国の概要を表で整理します。
| 項目 | 米国 | 英国 | タイ |
|---|---|---|---|
| 同性カップルの帯同ビザ | 法律婚があれば可能 | 未婚パートナーでも可能 | 法律婚があれば可能 |
| 日本の同性カップルの場合 | 第三国での婚姻が必須 | 2年以上の関係証明で可能性あり | タイでの婚姻登録が可能 |
| パートナーシップ証明の効力 | 無効 | 補助的証拠として参考程度 | 不要(タイで婚姻可能) |
| 追加コスト(概算) | 数十万円〜(第三国渡航等) | 証拠収集・弁護士費用 | 渡航費+手続き費用 |
米国:祝祭地法が突きつける残酷な条件
米国では、2013年のDOMA(結婚防衛法)違憲判決以降、同性配偶者にも異性配偶者と同じ条件で帯同ビザが発給されています。法律上の平等は達成されました。
しかし日本の同性カップルにとって決定的な壁となるのが「祝祭地法(Place of Celebration Rule)」です。USCISのポリシーマニュアルによれば、移民法上の「配偶者」として認められるには、「結婚が挙行された場所の法律において法的に有効であること」が絶対条件です。当事者の国籍よりも「どこで結婚したか」を重視する仕組みになっています。
具体的には、以下の3点が日本の同性カップルにとっての壁となります。
- 日本のパートナーシップ証明書は「法律婚」ではないため、米国大使館は移民法上の婚姻と見なさない
- 国務省は「シビルユニオンやドメスティック・パートナーシップでは配偶者の適格性を確立しない」と明記している
- 法的婚姻証明がない限り、帯同ビザの申請自体ができない
異性カップルなら市役所で婚姻届を出し、戸籍謄本を大使館に持ち込めば済む手続きです。
同性カップルが同じ結果を得るには、同性婚が合法な第三国へ渡航し、現地で婚姻手続きを行い、アポスティーユ認証を取得するという数十万円規模の迂回が必要になります。 これこそが「見えない税金」の正体です。
英国:同居証明要件の緩和という一筋の光
英国は以前から「未婚パートナービザ」のルートを用意してきましたが、最大の障壁は「2年以上の同居の事実」を一律に証明しなければならない点でした。共同名義の銀行口座や連名の公共料金請求書を揃えることは、日本の同性カップルにとって容易ではなく、事実上の門前払いとなるケースが少なくありませんでした。
しかし2024年1月31日、英国移民法(Appendix FM)に重要な改定が行われました。「2年以上同居していること」を一律に求める運用が緩和されています。
新たな要件は「結婚またはシビルパートナーシップに類似した関係に少なくとも2年間あること」の立証です。つまり同居の事実がなくても、2年以上の継続的な関係を総合的に証明できればよいことになります。
文化的・法的な理由で同居が困難な場合でも、関係の真正性を証明できればビザ発給の可能性が開かれた形です。 定期的なコミュニケーション記録、経済的支援の実績、共に過ごした休暇の記録などが証拠として認められます。法的婚姻制度がなく社会的偏見が残る日本の同性カップルにとって、これは重要な救済措置と言えるでしょう。
タイ:アジアの「安全地帯」の誕生
2025年1月22日、タイで婚姻平等法が施行されました。東南アジア初、アジアでは台湾・ネパールに続く3カ国目の同性婚合法化です。民商法典の「夫」「妻」をジェンダー中立的な「配偶者」に置き換え、同性カップルに異性カップルと同一の財産権・相続権・医療同意権を付与する内容となっています。
日系企業の駐在員が多いタイでこの法制化が持つ意味は極めて大きいと言えます。
- 外国人同士の同性カップルでも、要件を満たせばタイ国内で婚姻登録が可能
- 同性配偶者についてもNon-Oビザの申請ルートが開かれた実務情報があるが、必要書類や運用は申請先ごとの確認が必要
- タイの婚姻証明書は、他の国・地域での帯同ビザ申請の根拠としても機能し得る
これまでタイに駐在する日本人の同性パートナーは、観光ビザの繰り返し延長や語学学校への入学による学生ビザ取得など、極めて不安定な綱渡りの生活を強いられてきました。タイの法制化はアジア圏のグローバル・モビリティにおける「安全地帯」の誕生と評価できます。
企業は動き始めている。では同性婚の法制化は?

端的に言えば、企業単体の努力では国の法制度の欠如を補うことはできません。一部の先進企業はすでに同性パートナーの海外赴任帯同を制度として整備していますが、赴任先国のビザ制度が法律婚を要件とする以上、企業にビザを発給する権限はないのです。
それでも、この壁に挑む企業は確実に増えています。
先進企業の取り組み
公表情報で確認できる範囲でも、海外赴任における同性パートナー支援に踏み込んだ企業は複数あります。
- 荏原製作所は社内制度として同性パートナーを法律婚同様に適用し、「海外赴任時の家族帯同」を適用項目に明示している
- NTTグループは赴任旅費(家族移転費)や海外勤務の家族旅費等を同性パートナーにも適用する方針を掲げている
- P&G(グローバル)はビザ取得が法的に不可能な場合に月次の家族再会渡航を規程として用意しているとされている
一方、多くの日本企業の海外赴任規程は依然として「配偶者=法律婚のみ」が前提です。
企業が制度を整えても、赴任先国のビザが取れなければ帯同は実現しません。制度の欠如を企業の善意だけで埋めるには限界がある、というのが偽らざる現状でしょう。
「特定活動」ビザが映し出す構造的矛盾
この問題をさらに複雑にしているのが、日本政府の「外国人に対する対応」です。
日本は同性婚を法制化していないにもかかわらず、外国人同士で海外有効婚が成立しているケースを中心に、「特定活動」で在留が認められる運用があります。ただし個別審査と裁量の幅が大きく、すべてのケースで認められるわけではありません。
つまり「海外から来る人材の同性パートナーは一定の条件下で受け入れる」一方で、「日本から海外へ出て行く自国民が帯同ビザを取るために必要な法整備は行わない」という構造です。この構造に対しては、自国民と外国人材で対応が異なるという矛盾を指摘する声が上がっています。
国際的な人材獲得競争の文脈では「配慮」を見せる一方、自国民の家族の絆を守る法整備は後回しになっている。海外赴任の辞令を受けるたびに家族を引き裂かれる当事者にとって、この構造に理不尽さを感じることは想像に難くありません。
司法は「違憲」と言っている:同性婚と最高裁への道

率直に言えば、日本の司法はすでに明確なメッセージを発しています。「結婚の自由をすべての人に」訴訟において、全国6件の高等裁判所判決のうち5件が、同性婚を認めない現行制度を「違憲」と判断しました。
高裁が示した違憲の論理
とりわけ札幌高裁(2024年3月14日)の判断は、憲法解釈において画期的な意味を持ちます。
憲法24条1項を「人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻」と解釈し、同性婚も保障対象であるとしました。「両性の合意」という文言について、制定当時に同性婚が想定されていなかったことは認めたうえで、「社会の状況の変化に伴い、立法の目的に合わせて改めて解釈することも行われている」と述べています。
「想定外だった」ことは「禁止していた」ことと同義ではない。この明快なロジックは、今後の最高裁判断にも大きな影響を与え得る論理的基盤です。
名古屋高裁(2025年3月7日)は、国会の不作為に対して立法裁量の余地を狭める判断を示し、法制化の先送りに対する言い訳を明確に退けました。大阪高裁(2025年3月25日)は「別制度を設けることは新たな差別を生み出す危惧がある」と指摘しています。
唯一の合憲判決が語ること
一方、2025年11月28日の東京高裁(2次訴訟)は唯一の「合憲」判決を下しました。しかしその合憲判決ですら、判決文の中で「このままの状況が続けば、憲法13条、14条1項との関係で憲法違反の問題を生じることが避けられない」と述べています。
合憲と判断した裁判所自身が「このままでは違憲になる」と認めた形です。合憲の前提は「国会がこれから法整備の議論を行うこと」にあり、国会が審議を進めなければその前提は崩れます。
最高裁への道
現在、6件すべてが最高裁に係属しており、大法廷(裁判官15人全員)に回付される公算が大きいとされています。早ければ2026年にも、日本の婚姻平等の未来を決める重要な判断が示される可能性があります。
海外赴任で家族を引き裂かれている当事者にとって、この判断は「いつか」の話ではなく「今」の問題なのです。
よくある質問(FAQ)

まとめ:同じ辞令を、同じ笑顔で受け取れる日のために
同性婚の不在は、国内の書類上の不平等にとどまりません。
海外赴任の辞令という、ビジネスパーソンなら誰にでも起こりうる場面で、国境を越えるビザという壁となり、家族を物理的に引き裂きます。同じ会社で同じだけ貢献してきた二人の社員が、法律婚ができるかどうかという一点だけで全く異なる現実を突きつけられる。この構造的不平等は、企業の善意だけでは解消できません。
本記事のポイントを振り返ります。
- 日本で法律婚ができないことと、赴任先のビザ制度が法律婚を前提とすることの二重の壁が帯同を阻んでいる
- 米国の祝祭地法により、パートナーシップ証明書では帯同ビザを取得できない
- 英国の同居証明要件緩和やタイの婚姻平等法など、世界は確実に動いている
- 一部の先進企業は制度整備に踏み出しているが、根本解決は法制化にしかない
- 高裁6件中5件が違憲判断を下しており、最高裁での統一判断が待たれる
同じ辞令を受けた二人が、同じ笑顔で荷造りの話をできる日が来ることを願っています。
筆者より
最後まで読んでいただきありがとうございます。
海外赴任の話題は、一見すると「限られた人の問題」に見えるかもしれません。しかしグローバル化が進む現代において、海外赴任の可能性はあらゆる業種・職種に広がっています。そしてその瞬間に、同性婚がないという事実が「家族の分断」という最も過酷な形で突きつけられるのです。
この記事が、「自分には関係ない」と思っていた方にとっても、同性婚の不在が具体的に何を奪っているのかを知るきっかけになれば幸いです。
もしこの問題を初めて知った方がいたら、ぜひ周りの方にも共有してください。知ることが、変わることの第一歩です。
この記事の元になった投稿はこちら
Threadsで見る
参考資料
- 「結婚の自由をすべての人に」訴訟 各高裁判決文
- USCIS Policy Manual Volume 6, Part B, Chapter 6
- UK Immigration Rules Appendix FM(HC246改定、2024年1月31日発効)
- タイ婚姻平等法(Amendment to the Civil and Commercial Code Act No. 24 B.E. 2567)
- Business for Marriage Equality 公式サイト
- PRIDE指標2025レポート(work with Pride)
- 認定NPO法人虹色ダイバーシティ「LGBTQの仕事と暮らし白書2026」
- LGBT法連合会「困難リスト」
- 荏原製作所 ダイバーシティ推進公表資料
- NTTグループ サステナビリティレポート
- Fragomen「Japanese Visa Options for Same-Sex Spouses」
- Out Leadership / Open for Business「婚姻平等が日本にもたらす経済・ビジネスインパクト」
- Marriage For All Japan パートナーシップ制度情報データベース
- 渋谷区×虹色ダイバーシティ「全国パートナーシップ制度共同調査」











コメントお気軽にどうぞ!